個人事業主が行う会計処理とは?帳簿の種類や効率化する方法を紹介
個人事業主でビジネスを成功させるには、事業の収支や利益を正しく把握、管理できる会計の知識が欠かせません。
しかし、事業で具体的にどのような会計処理を行うのかわからない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、個人事業主が行う会計処理の概要や会計帳簿の種類、会計処理を行うために知っておくべきポイントなどを詳しくご紹介します。
個人事業主が行う会計処理とは
個人事業主が行う会計処理とは、事業の収入や支出を記録し、確定申告や税金の計算を行うための作業です。
会計処理を行う際には、以下の手順が必要になります。
- 取引内容を明確にする
- 取引内容に応じた勘定科目の選択
- 借方と貸方に分けて金額を記入する
- 帳簿付を行う(売上帳・仕入帳・現金収納帳・預金収納帳・経費帳など)
- 総勘定元帳の作成(すべての勘定科目の残高をまとめたもの)
- 決算書の作成(損益計算書・賃貸対照表)
- 確定申告書類の作成と提出(青色申告決算書・所得税及び消費税の申告書など)
会計処理は事業の成果や経営状況を把握し、改善するためにも重要となります。しかし、手間がかかるだけではなく、申告の内容に誤りがあると税務署から指摘される可能性もあります。
そこで、個人事業主向けの会計ソフトやクラウドサービスなどを利用することで、効率的かつ正確な会計処理ができるようになるでしょう。
個人事業主が付ける会計帳簿の種類
個人事業主が付ける会計帳簿の種類には、大きく分けて「主要簿」「補助簿」「現金出納帳」の3種類があります。
主要簿
主要簿とは、日々発生する取引のすべてを記録・計算する会計帳簿で、複式簿記では必ず作成しなければなりません。
主要簿には「仕訳帳」と「総勘定元帳」の2種類が存在します。
仕訳帳は、取引を借方と貸方に分けて日付順に記入したもので、キャッシュフローや取引内容を表します。
総勘定元帳は、仕訳帳に記入した取引を勘定科目別に書き写したもので、すべての勘定科目の残高をまとめます。
主要簿は決算書の元となる書類です。決算書は法人や個人事業主の収支や資産を示す重要な書類で、確定申告や税務調査などで必要となります。
補助簿
補助簿とは、主要簿の記録を補う目的で作成される帳簿のことで、「補助元帳」と「補助記入帳」の2種類が存在します。
補助元帳は、特定の勘定についての増減の明細を記録する帳簿であり、「固定資産台帳」「買掛金元帳」と「売掛金元帳」に分けられます。
補助記入帳は、特定の取引の明細を時系列で記録する帳簿で、「給与支払明細書」「預金出納帳」「現金出納帳」などがあります。
なお、補助簿は主要簿と併せて決算書や税務調査などに必要な書類です。
現金出納帳
現金出納帳とは、日々の現金の出入りや残高を記録する帳簿のことで、事業用の金庫やお店のレジなどから出し入れした現金を日付順に記入します。
現金出納帳に記入する主な項目は以下の通りです。
- 日付
- 取引内容
- 入金額
- 出金額
- 残高
また、現金出納帳を作成することで、現金と帳簿の不一致や盗難などを防ぐことができ、確定申告や税務調査などに必要な書類となります。
個人事業主が会計帳簿を付ける流れ
個人事業主が会計帳簿を付ける主な流れは、以下の通りです。
- 通帳や領収書などの記載内容の整理
- 利益や損失の計算
- 取引内容の記帳
始めに、通帳や領収書などに記載された取引内容を整理します。
支払い方法によって記入する帳簿が異なるため、領収書は現金で支払ったものと、クレジットカード支払いなどの銀行口座を経由して支払ったものに分けておきましょう。
また、総勘定元帳等に記帳した内容を基に収支の計算を行い、利益や損失を算出します。確定申告の際には、この結果を基に所得税等を算出することになります。
個人事業主が会計処理で知っておくべきポイント
会計処理にはさまざまなルールや注意点があり、正しく行わなければトラブルや損失につながる可能性があります。
ここでは、個人事業主が会計処理で知っておくべきポイントを5つ紹介します。
納めるべき税金の種類
個人事業主が納めるべき税金の種類は、以下の通りです。
種別 | 概要 |
---|---|
所得税 | 個人事業主の年間所得に対して課される税金。所得に応じて累進的に定められる。 |
消費税 | 商品・サービスの提供などの取引において課される間接税。原則として、前々年の売上が1,000万円を超えた場合に納める税金。 |
住民税 | 個人事業主が住んでいる市町村や都道府県から課せられる地方税。前年度の所得や扶養家族数などによって定められる。 |
個人事業税 | 個人事業主が地方自治体から課される地方消費税。前年度の所得に基づいて定められる。 |
これらの税金は、確定申告書を提出することで申告できます。
納付時期や計算方法は各種税金によって異なるため、注意が必要です。
給与という概念がない
給与とは、労働者が雇用者から労働の対価として受け取るものです。
個人事業主は事業で得た収入を生活費として使うことができますが、その場合、給与には該当しません。
また、個人事業主が収入を生活費として使えるのは、売上から必要経費や税金を差し引いた利益分だけです。その利益分をどれだけ取り出すかは自由ですが、帳簿上では「事業主貸」という科目で記録する必要があります。
なお、個人事業主が従業員に給与を支払う場合は、その給与を必要経費に計上することができます。
発生主義と現金主義の違い
発生主義と現金主義の違いは、損益起算書の作成方法に影響する点です。
発生主義では、期間中に発生した取引だけが損益に反映され、現金主義では期間中に現金が動いた取引だけが損益に反映されます。
そもそも発生主義とは、取引が発生した時点で収益や費用を認識する考え方です。金銭のやり取りの有無に関係なく計上しなければならず、売掛金を回収した時点ではなく、商品を売ったときに売上の計上をします。
また、現金主義とは、現金の入出金に基づいて収益や費用を認識する考え方です。商品を売っても売掛金が残っている場合は売上を計上せず、現金が入ってきた時点で初めて売上として認識します。
確定申告は原則として発生主義により記録し、一定規模以下の事業主が税務署に届け出をした場合のみ現金主義が認められます。
単式簿記と複式簿記の違い
単式簿記と複式簿記の違いは、「帳簿付けの複雑さ」と「情報量」にあります。
単式簿記とは、基本的には収支のみを帳簿に付けるシンプルな記帳方法であり、複式簿記とは「借方」「貸方」という概念を用いて、より正確に帳簿を付けていく方法です。
単式簿記は、手間が少なくわかりやすいという特徴がありますが、資産や負債の残高が認識できなかったり、誤りが発生しやすいというリスクが考えられます。
また、複式簿記では、手間がかかる分資産や負債の残高が認識しやすかったり、誤りを防ぐ仕組みがあるというメリットがあります。
どちらの方法を選択するかは、事業規模や目的によって異なるでしょう。
必要経費をもれなく計上する
必要経費は事業にかかるコストであるため、所得税の計算のときには、事業の収入(売上)から差し引くことが可能です。
そのため、必要経費をしっかりと管理して確定申告の際に計上することで、節税につながるでしょう。
必要経費として代表的なものは以下の通りです。
- 租税公課
- 修繕費
- 荷造運賃
- 水道光熱費
- 保険料
- 消耗品費
- 雑費
- 法定福利費
- 給料賃金
- 地代家賃
- 外注費
- 貸倒損失
- 支払手数料
- 減価償却費
ただし、上記の項目はすべて事業と関係のある支出であることが条件です。
事業と無関係の支出や、事業主自身の福利厚生関連の支出や税金に対しては、必要経費に計上することができないため、注意してください。
青色申告と白色申告で会計帳簿が異なる点とは
ここでは、青色申告と白色申告で会計帳簿が異なる点として、作成する書類の種類・帳簿書類の保存期間について紹介します。
作成する書類の種類
白色申告と青色申告では、作成すべき帳簿の種類や付け方が異なります。
白色申告に関しては、「2014年の法改正」により収支内訳書の提出が必要になりました。
収支内訳書とは、1年間の収入や経費の内訳、減価償却の計算などを記載し、所得を計算するための書類のことです。
白色申告の場合、複式簿記ではなく単式簿記での記帳が認められています。
また、10万円控除の青色申告の場合は、白色申告と同様に単式簿記で記帳を行います。
必要な帳簿は以下の通りです。
- 固定資産台帳
- 経費帳
- 現金出納帳
- 売掛帳
- 買掛帳
なお、55万円・65万円控除の青色申告を受ける場合には、補助簿に加えて仕訳帳と総勘定元帳などの主要簿が必要になり、帳簿の付け方としては複式簿記が用いられます。
帳簿書類の保存期間
帳簿書類に関しては、作成するだけではなく一定期間の保存が義務付けられています。
白色申告・青色申告、それぞれの保存期間については、以下の通りです。
白色申告の帳簿書類 | 保存期間 |
---|---|
|
7年 5年 5年 5年 |
青色申告の帳簿書類 | 保存期間 |
|
7年 7年 5年 |
税務署から申告について問い合わせがあった場合に、申告の正当性を主張するために各資料を提出できるようしっかり保存しておく必要があります。
また、申告内容について修正が必要になった場合、漏れていた税金を納付するだけではなく、追加で税金を支払う必要があります。
個人事業主が会計処理を効率化する方法
さまざまな手法で会計処理を効率化することで、業務をスムーズに行うことが可能になり、ミスや時間の削減が期待できます。
ここでは、会計処理を効率化する以下の方法を具体的に説明します。
- 表計算ソフトで経理業務を行う
- 会計ソフトを使用する
- 経理業務をアウトソーシングする
表計算ソフトで経理業務を行う
表計算ソフトとは、ExcelやGoogleスプレッドシートなどのソフトウェアがあり、数字や文字などのデータを表形式で管理・計算ができるようになります。
表計算ソフトを使用することで得られるメリットは以下の通りです。
- 数字の計算の手間と時間を省ける
- データの管理や分析が自由にできる
- 帳簿のフォーマットや見た目をカスタマイズできる
- データの保存や共有が便利に行える
経理業務では、売上や経費などの収支の記録を行ったり、損益計算書や貸借対照表などの帳簿を作成したりする必要があります。
これらの作業を表計算ソフトで行うことで、簡単に作業の効率化を図ることができます。
会計ソフトを使用する
会計ソフトとは、経理や税務に関するソフトウェアのことを指します。
売上や経費などのデータ入力を行ったり、仕訳や帳簿などを自動で作成したりすることが可能です。
会計ソフトを使用することで得られるメリットは以下の通りです。
- 入力ミスや記載ミスを防ぐことができる
- 仕訳や帳簿の作成の際に会計知識が不要
- 数字の入力や計算が簡単になる
- 確定申告書類の作成や電子申告に対応している
簿記の知識がなくても、会計ソフトによって効率的に入力作業が行えるようになります。
経理業務をアウトソーシングをする
アウトソーシングとは、自社で行なっている経理業務の一部、またはすべてを外部の専門家や会社に委託することです。
経理業務をアウトソーシングすることで得られるメリットは、以下の通りです。
- 経理業務にかかる時間や手間が省ける
- 経理担当者の採用や教育コストが削減できる
- 経理知識やスキルが不要
- 税務申告や監査対応などの専門的なサポートが受けられる
アウトソーシングを利用することで、作業の速さと正確性を兼ね備えたプロが業務を行うため、経理に時間を割くことなく本業に専念することが可能です。また、確定申告の際もスムーズに手続きを済ませられます。
まとめ
個人事業主における会計処理の主な業務内容は、事業の収入や支出の記録、確定申告や税金の計算などです。
会計は事業の成果や経営状況を可視化し、改善するために重要な役割を果たします。
会計処理を行うためにはさまざまなルールや注意点があり、納めるべき税金の種類や発生主義と現金主義の違い、単式簿記と複式簿記の違いなどを理解しておくことが必要です。
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- 記事監修
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- 中野 裕哲 HIROAKI NAKANO
- 起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP 技能士。 V-Spiritsグループ創業者。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「あの起業本」の著者。著書16冊、累計20万部超。経済産業 省後援「DREAMGATE」で11年連続相談件数日本一。